「そういや、先生第二次反抗期なかったって本当ですか?」
一体誰から仕入れた情報なのか、そんなことを聞いてくるシィル君に、わたしはわざとらしいため息をついた。
「そんなことは全くなかった。常に反抗していたよ。周囲から見てみれば、文句一つ言わず子供を育てる反抗期のない子供に見えたかもしれないけどね。口出しされれば文句をいってたし、手出しをされれば自分ひとりでやれるから手を出すな、うるさいなほっとけみたいなことを言って斜に構えていたなあ。結局そんなの口だけで、自分ひとりでなんてできるはずがなかったわけだけど。……思い出すと痛くて逃げ出したくなるものだね」
当時の知り合いには会いたくないものだと思う。
もし、その頃の自分のことを軽く話題にされたりしたら、魔法で穴を掘って飛び込みたくなる。
内心激しく悶えている事を誤魔化すために、無理やり冷静ぶって他人事のように喋っているが、嫌な汗が流れているのが自分でもわかる。
こんな話持ち出したシィル君に恨めしい気持ちを抱いたわたしは、矛先を彼のほうに振ってみた。
「そういう君は、常に反抗しているね」
「まあ、そうですね」
シィル君はあっさり肯定する。
彼の反抗対象にはわたしも含まれているだろう。マルガレーテ・アルニムとシステムへの反抗態度が酷すぎるのでそれに誤魔化され、見た目にはさほどわからないが。そしてそれは成長時に通過するようなごく通常の反抗心ではなく、有り余る復讐心に起因するものだろう。本来の意味で反抗期の無い子供というのはシィル君の方だと思う。彼は子供らしさや何もかもを捨てて、代わりに復讐心を詰め込んだような子供だった。
出会ったあの日、ハースの子になどならないと言い放ったあの時から、彼のわたしへの接し方は全く変わってなどいない。ただ、『失ったものの代わりなどいらない』という彼の本音の一端はわたしにも理解できるところではあった。押し付けられた『理想の家族像』に素直に反発するところだけは、ゆがみを抱えた彼の中で唯一健全と言ってもいいのかもしれない。
「まったく、難儀な子だねえ」
「その言葉そっくりそのままお返ししますよ。まったく、難儀な大人ですねえ」
「違いない」
全くそのとおりなので、これっぽっちも反論する気にはなれなかった。
2009年10月改稿