辿り着いた街は、今まで見た中で一番大きかった。
ループ・シィとエルタは宿をとると、いつものように夜を待ち、空の見える場所に向かった。
それはひとつの儀式のようなものだ。
叶うはずの無い願いを、星に託すための。
廃屋の屋根に登った二人は、空を見上げてため息をついた。
「ここでは、あまり星は見えないんだな」
「満月なのもあるだろうけどね。それよりも街が明るすぎるのが問題だろう」
ループ・シィは眼下の明かりを指差した。
そこに『夜』と言えるような闇は無かった。
人工の明かりが、煌々と街中を照らしている。
見上げると、空は光に照らされ、灰色に染まっているように見える。
これでは流れ星など見えそうに無かった。
「見えるのは、月ばかりってね」
苦笑するループ・シィに、しかしエルタは奇妙な程曇りの無い笑顔を向けた。
「それも悪くないかもしれない。別に星など見たく無い者にとっては。余計なものに煩わされることも無い」
なんとなく、らしくない言葉に、ループ・シィは首を傾げる。
半年前、星に願いを、と言い出した夢見がちな子供はそこにいなかった。
覗きこんだエルタの瞳は、真剣に、まっすぐにループ・シィを見ていた。
「願いをかなえてくれない星なんていらない。あいつらは自分を燃やして輝いて―― 一瞬で燃え尽きるんだ。
同じ願いをかなえてくれないなら、満ち欠けを繰り返す月のように、見えなくなっても消えてはいない、またあらわれて傍に寄り添ってくれる、そんな光が傍にあるだけでいい」
真摯なその瞳は、しかし暗い。
幼い明るさを摘み取ったのが自分であることを理解したループ・シィには、エルタに掛けられる言葉が無かった。
「ループが、月ならよかったのに」
月と人工の明かりの下、震える声で呟くエルタは、しかし泣いてはいなかった。
(2009.03.23改稿)