【夢】5のお題03. 満月

 辿り着いた街は、今まで見た中で一番大きかった。
 ループ・シィとエルタは宿をとると、いつものように夜を待ち、空の見える場所に向かった。
 それはひとつの儀式のようなものだ。
 叶うはずの無い願いを、星に託すための。

 廃屋の屋根に登った二人は、空を見上げてため息をついた。

「ここでは、あまり星は見えないんだな」
「満月なのもあるだろうけどね。それよりも街が明るすぎるのが問題だろう」

 ループ・シィは眼下の明かりを指差した。
 そこに『夜』と言えるような闇は無かった。
 人工の明かりが、煌々と街中を照らしている。
 見上げると、空は光に照らされ、灰色に染まっているように見える。
 これでは流れ星など見えそうに無かった。


「見えるのは、月ばかりってね」

 苦笑するループ・シィに、しかしエルタは奇妙な程曇りの無い笑顔を向けた。

「それも悪くないかもしれない。別に星など見たく無い者にとっては。余計なものに煩わされることも無い」

 なんとなく、らしくない言葉に、ループ・シィは首を傾げる。
 半年前、星に願いを、と言い出した夢見がちな子供はそこにいなかった。
 覗きこんだエルタの瞳は、真剣に、まっすぐにループ・シィを見ていた。

「願いをかなえてくれない星なんていらない。あいつらは自分を燃やして輝いて―― 一瞬で燃え尽きるんだ。
 同じ願いをかなえてくれないなら、満ち欠けを繰り返す月のように、見えなくなっても消えてはいない、またあらわれて傍に寄り添ってくれる、そんな光が傍にあるだけでいい」

 真摯なその瞳は、しかし暗い。
 幼い明るさを摘み取ったのが自分であることを理解したループ・シィには、エルタに掛けられる言葉が無かった。
 
「ループが、月ならよかったのに」

 月と人工の明かりの下、震える声で呟くエルタは、しかし泣いてはいなかった。

(2009.03.23改稿)

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