見上げる空は近い。
伸ばした手を掠める風の感触は、酷く冷たかった。
「何をしているんですか?」
フェルゥウィシト空中庭園に案内してくれたガイドに訝しげに尋ねられたので、木蓮はわらってこたえた。
「空の、手触りを確かめたくて」
大地から遠いせいなのか、ここの大気は冷たい。
風は鋭い。
目を細めて木蓮は手を伸ばす。
こうやって、土地ごとの空の手触りを比べるのが好きだ。
そういうと、変な人ですね、と笑われた。
木蓮も笑って頷いた。
「よく、言われます」
でも、止められないのだ。
多分、旅をするのも世界の実感を確かめたいからなのだろう。
ふと隣を見ると、ガイドも手を伸ばしていた。
「わかりますか?」
ガイドは手を引っ込め、小首をかしげて苦笑した。
多分わからないのは、それが彼の最も近い世界だからだろう。
当たり前すぎてわからない感触。
彼の生まれて育った世界の手触りは、彼にとってあまりにも身近なものだから。身近すぎて気付けない。
木蓮も、故郷を失い旅に出るまで、世界の感触なんて気付きもしなかったのだ。
だから、
「変人にしかわからないのです」
木蓮は笑う。
ガイドがその言葉にふきだした。
(2009年04月18日 別サイトより転載)